テニスも、勉強も、自分からやりたくなる「やる気」アップのコツ
ソフトテニスに効くメンタルトレーニング講座Vol.16 講師◎大儀見浩介
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勉強しろと言われるとやる気がなくなる
さあ、勉強しようと思った矢先にお母さんから「早く勉強しなさい」と言われて、途端にやる気をなくしてしまう。学生のみなさんにはよくある話なのではないでしょうか。そこで今回は『やる気』について考えます。
試合やテストの前に「今日は一刻も早く試合をしたい」「今すぐにでも試験を受けたい」という気持ちになることがあります。そんなときは「イケそうだな」「やれそうだな」と思っているわけですが、この『イケそうだな感』『やれそうだな感』こそが、人間のやる気です。
やる気を、心理学の専門用語で『内発的動機付け』と言います。そして、やる気を高めるために行うのが、目標設定です。では、みなさんの質問を見ていきましょう。
Q.うまくいっていないとどうしてもやる気が失せてしまう。
(中3男子)
目標を立てたけど、やる気がなくなるというのは、目標の難易度が低い可能性が考えられます。フロー理論(下表)によると、人間は自分の能力が高いのに、課題・目標が低い場合、退屈しますが、反対に、能力が低いのに、目標の難易度が高すぎると、不安になります。
前転をやりなさいと言われると、簡単なのですぐに退屈しますが、バック転をやれと言われると、そんな難しいことはできないと不安になってしまう。
『イケそうだな感』が最も高まり、やる気に満ちあふれてくるのが、真ん中のフローの部分です。人間は自分の能力に見合った、最適な課題・目標を持つことが大事なのです。
限界+10%の『110%目標』で
何かがうまくいっていないときは、うまくやろうとしていること(目標)を細分化するといいですね。ここまで行き着きつきたい(最終的な目標)というときに、いきなり頂上を目指すと、うまくいかないことがたくさん出てきて不安になってしまいます。小さく、小さく、細分化した目標を、階段状に一歩ずつ上がっていけばいいわけです。
目標の第一歩目は、自分の能力の限界+10%(110%)に設定しましょう。これを私は『110%目標』と呼んでいます。中間試験で50点しか取れなかった子に、期末試験で100点を取れと言っても「無理!」となるわけですが、10%増しの55点でいいよと言えば、「プラス5点でいいの? それなら取れそう!」と答えるでしょう。
そして、「イケる」という気持ちになってから勉強をすると、不思議と成績は上がるのです。どうせ無理だよと思って勉強を始めるのとでは、結果が全然違ってきます。
では、目標の細分化とはどういうことか。料理の例で説明すると、『いきなりおいしいカレーを作ろう』と思うと難しいわけですが、
①玉ねぎを細かく刻む
②あめ色になるまで炒める
③火加減をこまめに調整する
…
など、一つひとつを箇条書きにします。優先順位やムダを省き、細分化して適切なプロセスを踏んでいけば、自ずとおいしいカレーはできるでしょう。
自分でつくった料理がおいしいのは、自分でやった感があるからです。人間誰しも、自分の努力を肯定したくなるもの。一方で、チャレンジしているのに達成感が得られない、自分ではできたと思えないという人は、誰かのマネをしているだけだったり、親や指導者に言われたことだけをこなそうとしている可能性があります。先生に怒られるのが嫌だからやる、評価のために、お金のためにやる、つまり外からやらされている状態です。これを、内発的動機付けに対して『外発的動機付け』と言います。
冒頭の勉強の例では、自分からやろうと自己決定して高まった内発的動機が、外発(お母さんの早く勉強しなさい)によって、一気にしぼんでしまいました。こういう場合、お母さんの言葉でやる気をなくすのは簡単ですが、もう一度「何時から何時までやろう」「休憩時間は何時で何分」「どこまでやったら終わりにする」と自己決定をしていくことで、再びやろうという気持ちが高まってきます。
最初の動機は外発的でも構わないのです。「仕方ないからやろう」から始まり、自己決定を増やしていけば、最終的には「もっとやりたい」「自分からやりたい」という内発的動機に変わっていきます。このプロセスが『内在化』(下図)です。
東海大一中(現・東海大学付属翔洋高等学校中等部)サッカー部時代に全国優勝を経験。東海大一高ではサッカー部主将、東海大学進学後、高妻容一研究室にて応用スポーツ心理学(メンタルトレーニング)を学び、現在はスポーツだけでなく、教育、受験対策、ビジネス、社員研修など、さまざまな分野でメンタルトレーニングを指導している。2012年、メンタルトレーニングを広く伝えるために「株式会社メンタリスタ」を立ち上げる。著書に『クリスチアーノ・ロナウドはなぜ5歩下がるのか~サッカー世界一わかりやすいメンタルトレーニング』(フロムワン)、『勝つ人のメンタル~トップアスリートに学ぶ心を鍛える法』(日経プレミアシリーズ)。年間約250本の講演活動を行っている。