【張人対談・ガットを語ろう。】“張り”について[後衛編](廣島敦司×井口雄一)
#05 “張り”について[後衛編]
ガットの商品理解と張りの技術を磨き、老若男女のソフトテニスを全国でサポートする「張人(はりびと)」によるガット談義。今回は、日本体育大でナショナルメンバーなどを経験し、実業団選手を経て父の経営する宮崎の“スマッシュイグチ”へと戻った井口雄一氏が登場! 後衛のストリングについて、廣島氏と語り合います!
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幼なじみのマネをして硬いポンド数に
廣島 井口さんと初めて会ったのは私が入社したてのころ、あなたがまだ中学生くらいのとき。大会でお姉さんの応援に来ていましたね。
井口 長崎の大会でしたね。ボレーボレーをしてもらいました。
廣島 やったね。井口家はソフトテニス一家で、お父さんの鉄郎さんもソフトテニスのスペシャリスト。ブース裏でボレーボレーをしたんですが「うまいな!」と思いました。当時から前衛?
井口 中学時代は後衛でした。同じ宮崎で幼なじみにライバルがいたので、彼に負けたくないなと、とにかく速いボールを打ちたいと思っていました。
廣島 今回の対談は、その後衛のガットの“張りについて”がテーマです。
井口 僕はポンド数とか、全部誰かのマネから入っていて、中学時代は、ライバルが硬いポンド数で張っていたので、自分もそうしていました。硬く張ったら速いボールが打てるって思いこんでいたんですけど、今思うと硬い=速いボールではないですよね。
廣島 そういうふうに「カッコいいから」でマネをする後衛は多いかもですね。いつまで後衛を?
井口 小学生のときは前衛で、中学校に入ってから中3まで後衛をしました。都道府県全中ではそのライバルと組むことになって、後衛なのに前衛をさせられて、個人戦は前衛で、都道府県対抗は後衛で出るという(笑)。※
(※編集部注:結果は個人3位、団体準優勝)
廣島 大変でしたね。
井口 僕は後衛をやりたかったんですけど、先生も親も僕を前衛だと思っていたみたいで。高校で前衛になりました。でも今思うと、後衛の経験もあったから、前衛にも活かせたかな、と思いますね。
廣島 お父さんも名前衛だから、息子を前衛にという思いはあったでしょうね。それを見ているから、尽誠学園高の塩田(孝一)先生も、前衛と思ったでしょうし。
どこから張り始めるか
井口 後衛の“張りについて”ですが、前衛は弾きたいから下から上にかけて張っていく。でも後衛は弾き過ぎるとコントロールがつけづらいイメージがあって、先に上から張っていくことで、多少ゆるみというか球持ち感が出るのではという感覚はあります。
廣島 張り方は無限のパターンがありますね。ゴーセンは基本的にタテと横を同じ糸で続けて張る“1本張り”ですが、タテと横を別々に張る“2本張り”というやり方もある。
井口 うちのお店でも基本的に1本張り推しです。社長(父の鉄郎さん)が2本張りより1本張りのほうが緩みにくいという考えで。
廣島 そうですね。1本張りの方が緩みに対するリスクは少なくなるという理由だね。
井口 はい。1本張りは結び目が2つ、2本張りは結び目が4つ、結び目が少ないほうが緩みにくいという考えです。ただ、昔は差があったかもしれませんが、今は技術も上がってきているので、そこまでの差はないかなと、僕自身は思っています。お客さんからリクエストがあればそれに合わせています。
廣島 リクエストといえば、選手にはふだんお店で自分のガットがどう張られているか、関心を持ってほしいですね。たとえば2本張りを希望されて、ふだんの張り始めがどこか聞いても「分かりません」だと、こちらの張り方で張るしかないんですが、それでフィーリングが違うとなっても良くないですし。
井口 そうですね。あと張り方については、ラケットにもよりますよね。タテ糸の終わりがラケットによって上の場合もあるし下の場合もある。そういうふうに、ラケットの特徴によっても張り方は変わってきます。
ストリンガーはこだわり派!
廣島 実業団の選手時代も、選手としてプレーしつつ、ガット張りも経験してきましたよね?
井口 そうですね。僕は大学入学くらいから自分でガットを張るようになって、家で張り方を教わって覚えながら、いろいろな方にも話を聞いて“こうやって張ればいいんだ”という自分なりの知識を身につけてきました。
廣島 トータルすると、ストリンガー歴は?
井口 社会人になってからと考えて、丸7年、今8年目ですね。宮崎に帰ったのは社会人4年目くらいです。
廣島 お店でかかわるようになって何か変わったことは?
井口 うちはバドミントンも取り扱っているので、張りの奥深さをさらに感じました。初めてバドミントンを張ったときに、父と比べられることが多くて。父と2人で張って確かめ合うことを徹底してきて、技術を上げてきました。
廣島 お父さんの鉄郎さん、張りが早いし丁寧ですね。
井口 うちもストリング専門店だからこそ、早くて丁寧にやっていこうとずっと話していました。早く張り過ぎると雑になってしまいますが。
廣島 ストリンガーを本格的に始めて、お客様と接する上で難しいことは?
井口 使う人に合ったガット選びやポンド数ですね。一般や高校生は自分のポンド数を分かっていることが多いですが、中学生のまだ経験の浅い子が来たとき、その子に合ったストリングやポンド数を提案していくのが一番難しく、今でも課題だと思っています。
廣島 そうですね。
井口 あと、今心掛けているのが、誰が張っても同じにできればということ。どうしてもちょっと差は出るけど、たとえばこういうやり方をやってみましょうとストリンガーで共有した際に、同じように張れれば一番。そうしたら誰もが安心できる。
廣島 理想の形ですよね。
井口 ガット張りもテニスの練習と同じだと思っています。結局、経験と、どれだけ練習をしたか。ウチでは(父である)社長と2人で、毎回同じになるように、と取り組んできました。お店はお店で、大会会場では会場でのみんなと同じ張り方になるように。結構自分のハードルを上げている感じですけど、それぐらいこだわらないとダメだなと。
廣島 こだわりがないと良いストリンガーになれないと思いますよ。
張りにいい加減ではいたくない
井口 ガットって、やっぱり後衛か前衛かというより、球持ち感が欲しいか弾きが欲しいかで、結局その選手にあったのを見つけていかないといけないですよね。
廣島 その通り。前衛でも球持ち感が欲しい前衛はたくさんいます。
井口 僕も前衛でしたが、どちらかというとその“球持ち”のほうでした。
廣島 井口さんはプレーを見ているとガンガン弾くんですけど、フィーリングは柔らかいほうが好きという。パッとプレーを見たときの印象と、本人の感じているものがちょっと違ってくる。やはりコミュニケーションは重要だと思います。
井口 高校のころは球持ちという感じではなくて、力のプレー、もう“カッコいいプレーをしたい”という思いでやっていました(苦笑)。硬く張ってダイナミックなプレーをする、高校時代はそれだけでした。
廣島 カッコよく目立ちたい、という理由だとは思わなかったな(笑)。
井口 高校時代はガットに対して確固たる信念はなかったんですが、“こうやりたいな”というのがうすうす思い浮かんでいるころで。今、ストリンガーとして自分の強みは、自分も選手であること。自分が嫌だからですけど、張りに対していい加減ではいたくないと思っています。
廣島 井口さんは実業団でプレーした経験も生きていると思いますし、感覚が敏感。選手の感覚をくみ取ってできるのは大きい。今のソフトテニスでは、プレーヤーを経てストリンガーになる方が多いので、そこを生かしていきたいですね。
井口 はい。
廣島 情報と張る技術だけなら経験で獲得はできますが、このラケットにこのテンションで張るとこのくらいのフィーリングというのは、選手経験者のほうが実感として分かる。知識だけで“私の張りが正解です”というようなストリンガーにはならないようにしています。
井口 僕も押し付けることはしたくありません。今はこだわっている人が本当に多くなっているので、しっかり応えてあげたい。そうすることでさらにテニスそのもののレベルも上がっていくと思います。