カンボジアには時速199㎞のサービスを打つ選手も、ただし大舞台でのメンタルに課題
荻原雅斗のカンボジア通信【不定期連載⑧】
カンボジアでソフトテニスがプレーされ始めたのは2014年。ナショナルチーム選手の多くは硬式テニス経験者だという。中には、時速約199㎞の規格外サービスを放つ選手も。なぜソフトテニスに転向したのか!?
荻原雅斗/おぎわら・まさと
1990年7月1日生まれ。岐阜県多治見市出身。Global Grow Cambodia 代表取締役社長。青年実業家。 東北高→中京大→カンボジア。ソフトテニスを12年間続け、学生時代に三度の日本一を獲得。現在はカンボジアソフトテニスナショナルチームのヘッドコーチとして活動中。また、教育(スポーツ・音楽・文化交流)という軸でさまざまなプロジェクトの構築を行っている
硬式で仲違いしたグループがソフトテニスへ
ーーカンボジアではどんな選手がソフトテニスを始めるのですか?
2019年度のナショナルチームは、6人中5人が元テニスプレーヤーです。カンボジアソフトテニス連盟の発足は2014年ですが、当時、硬式のテニス連盟でいろいろと仲違いがあったらしく…メンバーが2つに割れてしまったみたいなんです。それで、2つのグループの一方が、タイミングよく発足したソフトテニスに流れてきたという(笑)。
もちろん理由はそれだけではなくて、ワールドワイドなテニスの世界で勝ち上がるのは難しく、ソフトテニスは東南アジアでの活躍が期待できるので魅力的、ということもあると思います。発足当時のナショナルメンバーの約半分は引退していますが、コーチやスタッフとして今もソフトテニスに関わってくれています。
ーーカンボジアのソフトテニス人口は?
カンボジアソフトテニス連盟の登録によると、首都プノンペンに30〜40名、カンボジア全体では約100名のソフトテニスプレーヤーが存在します。競技者としてのソフトテニス、愛好者としてのテニスという傾向が強くなっている気がしますね。
首都プノンペンでは最近、知り合いの口コミなどで日本のジュニアにあたるキッズプレーヤーが増えてきました。子供たちだけでコートにやってきて、楽しそうにプレーしています。キッズプレーヤーのシューズは、宮城学院女子大教授の工藤敏巳先生にご支援いただきました。
約3年前に宮城の工藤先生を中心に集めていただいた「カンボジアの子どもたちにテニスシューズを」という寄付金を、ようやく使わせていただくことができました。
当時の趣旨とは少し異なりますが、カンボジアのソフトテニスキッズたちのために使わせていただきました。
— 荻原雅斗🇰🇭カンボジアのまさと (@masato_ogiwara) August 9, 2018
カンボジア人は新しいものが好き
ーーテニス経験者が苦戦するのは、どんなことでしょう?
テニスは後衛主体というか、ハーフポジションでオールラウンドなプレーが求められるので、ソフトテニスの後衛や前衛といった概念を理解してもらうのに時間がかかります。国際大会で初めて雁行陣を見て、やっと理解できたようです。
グリップは最初に結構な時間をかけて指導するのですが、変えるか変えないかの最終的な判断は選手に任せています。グリップに慣れるまでに時間はかかりますが、身体の使い方はテニスと似ているので、そのほかの技術の習得は早いですよ。
ーーバックハンドは両手ですか?
それが、両手と片手と半々くらいなんです。2018年夏に東北高校で合宿した際に、中津川澄男先生には両手のまま貫いたほうがいいというアドバイスをいただいて。懐が広くなるので打つコースが広がって、フォアと同じように打てるんです。シングルスでは特に魅力的です。
でも、カンボジア人は新しいもの好きなところがあって。ソフトテニスの片手バックハンドにあこがれがあるようで、頑張って習得する選手も少なくありません。ラケットも、新商品が出たらすぐ買っていますよ。
ーーYouTubeで選手の映像を見ましたが、サービスは規格外のスピードですね!
時速約199㎞のサービスを打つビックサーバーもいます(笑)。東南アジアの大会ではサービスエースを連発できるのですが、まだまだメンタル面が弱くて。大きな舞台ではなかなか入らないのが課題です。
ストロークもレベルが高いのに、いざ試合になったらロブロブだったり。これはカンボジア国内の他競技にも言えるのですが、メンタル面の強化は必須です。今の選手は場数を踏むしかないと思いますが、将来を担う子供たちに対しては、教育面からも人間力を育成するという国全体の動きがあります。
とは言っても、彼らはソフトテニスを楽しんでいます。練習を強制しているわけではありませんが、みんなソフトテニスが大好き。カンボジアの義務教育は教員不足で午前と午後の二部制なのですが、キッズプレーヤーも空き時間にふらっと来ては時間の許す限りプレーしています。テニスを楽しむ気持ちはこれからも大切に持ち続けてほしいですね。
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写真◎荻原雅斗氏提供 取材◎井口さくら