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2019.03.02

あの日から8年。テニスコートとショップができること「自分たちが盛り上げる」石巻とKEIスポーツの復興秘話【後編】

レポート by ソフテニ姉さん

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2017年9月に新装オープンしたKEIスポーツの店頭に立つ石森さん。あゆタロウチャンネルとコラボしたパーカーを着て

 自然豊かな海の街・宮城県石巻市にあるソフトテニスショップKEIスポーツは、ソフトテニス界初のショップとテニスコート、スクールが一体となった施設だ。代表取締役の石森慶哉さん(42歳)は、東日本大震災後、スポーツの力、ソフトテニスの力で街に活気を取り戻す活動を続けている。

支えてくれた、助けてくれたことを忘れないため

 毎年3月末にKEIスポーツの主催で行われている『石巻復興プロジェクト中学生ソフトテニス大会』は、石巻市の全中学校のソフトテニス部が参加できる。

「2012年にスタートし、今年で7年目になります。大会名は、『こういう出来事があった』というのを忘れないためにつけました。震災を忘れないためではなく、いろんな人たちが支えてくれて、助けてくれて、ボランティアで来てくれた人たちも本当にありがたかった、そういう感謝の気持ちを忘れない、という意味があるんです」

 筆者は2回目から行かせていただいており、昨年はYouTuberのあゆタロウさんもゲスト参加するなど年々盛り上がりを見せている。

 現在、KEIスポーツでアルバイトをしている大学生の小出竜也さん(21歳)は、中学2年生の時に復興大会の第1回目に出場した。

「震災が起きた時は、正直『終わった、死ぬんだな』と。何とか無事だったけれど、親戚は亡くなりました。ライフラインが途切れ、2週間、風呂にも入れなかった期間は本当につらかった。普段の生活が当たり前じゃないことを知りました。震災後は、どうしていいか分からず、何もなかったから、部活があって良かったなと思います。ボールを打ったり、友達と楽しく話せる時だけは、つらいことを考えなくてよかった。石森さんは、当時から、いろんなアドバイスをしてくれました」

 震災が中学生の心をどれだけえぐったかは、想像を絶する。小出さんの経験は、スポーツが人生のつらい時期を支えるものだと伝えてくれると同時に、石森さんのような環境をつくる大人の力が必須であることを感じた。

KEIスポーツでアルバイトをしている大学生の小出さん

KEIスポーツの2階へと続く階段。「レッスン後の生徒とここで話す時間が好き」と小出さんは言う

田舎だけど、SNSを使えば発信できる

 震災からしばらくした2016年、新たな風が吹いた。東北高、東北福祉大、ヨネックスで選手として活躍した森田祐哉さん(31歳)が所属することに。

「ヨネックス在籍時に復興支援として被災地での講習会を数多く行っていました。石巻は被害が大きかった場所なので、スポーツができる喜びを知っている方が多いと思います。現在、僕はスクール事業の責任者。指導の質を高めながらも、積極的に声をかけて生徒とコミュニケーションを取れるように心掛けています。表情が暗い時があれば、『最近どう?』と聞いてみたり、テニス以外の話をすることも大事かなと思います」

宮城県出身の森田さん。東北高時代には全日本高校選抜、インターハイでチャンピオンに。ヨネックス時代は全日本社会人選手権を制した

コートのすぐ横に、ショップ兼クラブハウスが

 森田さんに続き、昨年は工藤浩輔さん(24歳)が加わった。やはり東北高で活躍し、名門の日体大を経て、仙台の実業団チームでもプレーした選手だ。

「震災の時は東北高に在学していました。中津川(澄男)先生に連れられて、部員全員で石巻の高校のヘドロかきを手伝いました。もともとは教員志望で、石巻の学校で臨時採用されたあと、石森さんに声をかけてもらい入社したんです。ソフトテニスはすることも教えることも好きですし、以前もネット販売の仕事をしていたので、自分の強みを活かして働ける環境はありがたいです。石森さんは、社長だけど気軽に接してくれます。気を遣いすぎなくていいというか、ちょうどいい(笑)。よくみんなで食事にも行きます。森田さんは東北高の先輩になるので、ペアを組ませてもらえて心強いです」

秋田県出身の工藤さん。TwitterやYouTubeでは赤魔王を名乗り、独特のキャラで活躍

従業員と社長が楽しそうに遊ぶ。工藤さんと石森さん

 森田さんはナショナル、工藤さんは全日本U-20に選出されたプレーヤーで、東北高の先輩後輩という最強ペアは、一般の東北大会で優勝するなど、選手としても活躍している。さらにKEIスポーツは、それぞれSNSの個人アカウントを持っており、YouTubeやTwitterを活用しながら、活動を広めている。

「こんな田舎だけど、SNSを使えば発信ができるし、それを見て応援してくれるお客さんがいることがうれしい。石巻は、少しずつ復興してきたとはいえ、震災前と比べてまだまだです。スポーツができること、テニスコートとショップ、そして自分たちが、地域を盛り上げられたらいいなと思います。遠いと思うけど、ぜひ遊びにきてもらいたいですね」(石森さん)

 移動中、町並みを車から眺めていると、ある施設に掲げられたメッセージが目に入った。

『流されたのではない、新しい町に生まれ変わるのだ』

 震災から8年、ソフトテニス、スポーツで復興を遂げる新しい石巻。被災地と呼ばれなくなる日は、もうすぐそこだ。

写真・文◎本山友理(@yuritenigon43 


(前編はこちら

KEIスポーツ石森Twitter(@keisportskeiya )
KEIスポーツ森田Twitter(@yuya_keisports
KEIスポーツ赤魔王(@KEIkudo0904

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