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東南アジア勢の活躍が目立った世界選手権。「トップをひっくり返してやろう」と、高まる団結力で急成長中!

男子国別対抗コンソレーション優勝のカンボジア

昨年10月末の中国での世界選手権。カンボジア男子は国別対抗戦の初戦で韓国に敗れたが、コンソレーションマッチで優勝した。カンボジア隣国のタイは本戦3位入賞を果たし、フィリピンとインドネシアは8強入り。東南アジア勢は今、韓国・日本・中華台北の3強とはまた違うスタイルで急成長している。その背景について、東南アジア連盟の一員である荻原氏に聞いた。
 
 荻原雅斗/おぎわら・まさと
1990年7月1日生まれ。岐阜県多治見市出身。Global Grow Cambodia 代表取締役社長。青年実業家。 東北高→中京大→カンボジア。ソフトテニスを12年間続け、学生時代に三度の日本一を獲得。現在はカンボジアソフトテニスナショナルチームのヘッドコーチとして活動中。また、教育(スポーツ・音楽・文化交流)という軸でさまざまなプロジェクトの構築を行っている
 

カンボジアは、優しい国民性が弱点でもある

 ーーカンボジアチームにとって2度目の世界選手権。男子はコンソレで金メダルを獲得しました。
 
 正直なところ、男子はドローによっては勝てるんじゃないかとメダルを狙っていましたが、国別対抗戦の初戦で韓国と当たることが分かり……どれだけやれるかという感じでした。結果的に0ー③で敗れましたが、試合内容は前回の2015年とは全く違います。前回は韓国が本気を出してこなかったのですが、今回は試合にはなった。まだまだ韓国、日本、中華台北の3強には及びませんが、技術面では指導することはもうないと感じるくらい、濃い試合ができたと思います。
 
 本戦で負けたことは残念ですが、すぐに切り替えて、一つひとつ取りこぼしなく勝ち進めたのは成長です。2019年8月のアジアユニバースで得た”勝ちきる自信”がここでも生きたかなと。
 
 一方で、課題はやはりメンタル面。最後の一本を取りきれないんです。そこには日常生活が大きく関係していて、選手がどれだけ自立して考えられるかということが大切だと思っています。カンボジアでは国全体が支援慣れしていて、困っていれば誰かが助けてくれるという風潮があるので、みんな優しいんです。でも、タイやフィリピンは自分で稼いで大学に行って、自分でやるしかないという状況が当たり前なので、選手も自立している。それが勝負を分ける場面での気持ちの強さにつながっていると感じました。
 

世界選手権の開会式。26か国が参加した

ーータイは男子国別対抗戦で3位。東南アジア勢の活躍も目立ちました
 
 正直なところ、前回の世界選手権は日本・韓国・中華台北の3強以外は盛り上がりに欠けていたと思うんです。僕は初めての世界選手権で個人的には面白かったですが、カンボジアチームとしての盛り上がりは今一つで……。それが今回、3位に入ったタイをはじめ、8強のフィリピンやインドネシア、そしてコンソレ優勝のカンボジアといった東南アジア勢の頑張りで、大会そのものの雰囲気もガラッと変わったと感じました。
 
 これまでは、東南アジア勢に対して優しく打ったり、カットサービスを封印するなど、いわゆる”接待テニス”をしてきた国にも「油断していたら足をすくわれる」という驚異を与えられたんじゃないかと思うんです。僕たち東南アジア勢は「どこかの国がトップをひっくり返してやろう」と、団結して取り組んできました。
 
ーー団結するきっかけがあったのですか?
 
 SEA GAMESへの参加が大きいです。2年に一度開催され、2019年で30回を迎えた東南アジア競技大会なのですが、この大会は開催される種目の入れ替わりが激しく、人気種目でないと開催されないんです。ソフトテニスはこれまでに2度開催されているのですが、まだ正式種目にはなっていません。3大会連続で種目入りすることが正式種目入りへの道になるので、2021年のベトナム大会と2023年のカンボジア大会に向けて、種目入りを目指そうと普及活動面でも団結力が高まっています。
 
 そしてその先に、オリンピックの正式種目入りも見据えています。これまで東南アジア勢は、ソフトテニスの海外普及という点で日本や韓国に助けられてきましたが、最近では日本や韓国に頼らず自分たちで頑張ろうという流れがあって。2019年12月に東南アジア連盟も発足しました。オリンピックの正式種目入りを目指す海外普及活動として、ソフトテニスのない国へ各チームのコーチを派遣するという動きも出てきています。
 
 今回の世界選手権では、東南アジア勢がコート内外で切磋琢磨してきた成果を少しは発揮できたのではないかと思います。

2019年12月に発足した東南アジア連盟。第1回の会議では、海外普及の一環として各国のコーチを派遣することが決まった

東南アジアは”いいとこどりスタイル” 

ーー東南アジア勢のテニスの強みはどんなところですか?
 
 1番はプレースタイルです。3強と比較したとき、圧倒的に硬式テニス出身者が多いので、いい意味でなんの固定観念もなくプレーできるんです。硬式テニスのようなポジションを織り交ぜた自由な陣形や両手バックハンドなど、テニスとソフトテニスのいいとこ取りのスタイル。どの国もまだ中途半端で未完成ですが、完成して型がハマってくれば、3強のテニスとやり合えるのではないかと思っています。
 
 そのような点からも、女子シングルスで硬式テニス出身の謝思琪が金メダルを獲得したことはビッグニュース。硬式出身者でもやれるという証明と、自信を与えてくれました。
 
 それから、カンボジアチームとしてはミックスダブルスにもチャンスがあると思っています。カンボジアではカンボジア選手権という全日本選手権のような大会でもミックスダブルスが開催されます。日頃からミックスに取り組む環境があるので、女子選手にもっと頑張ってもらってメダルを狙っていきたいですね。
 

硬式テニスから転向後、わずか8か月で世界選手権女子シングルスの頂点に立った中国の謝思琪。バックハンドは両手打ちで、スライスやロビングも両手から繰り出す

荻原雅斗のカンボジアあるある
⑦一人部屋は必ず余る!
優しくて寂しがり屋のカンボジア人は一人が嫌い。遠征先のホテルでは、男女ともに一人部屋は「絶対嫌だ!」と、必ず荻原氏にシングルルームが回ってくるという。  
世界選手権写真◎井出秀人 写真提供◎荻原雅斗 取材◎井口さくら
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