現在の状況で、できることはないか。時間をかけて、何度も意見をぶつけた。それが形となったのがミズノ“オープン”だ。ソフトテニスの新たな可能性を“開く”(オープン)、そんな想いも込めたミズノ初のオンライン無料ライブ配信大会の開催が決まり、全国へ男子トップの戦いを届けることに。魅せる大会へのきっかけになればと願う。
MIZUNO RACKET SPORTS公式アカウントにてLIVE配信予定
魅せる大会運営はこれからのモデルに
――この大会を企画するようになった経緯から教えてください。
小林 元々はナショナル合宿が延期になり、天皇杯など主要な大会がなくなっていくなかで、何かできないかという声は社内にもありました。そこで、年齢の近いNTT西日本監督の堀さんにご相談させてもらったのが出発点です。雑談からでしたが、アイデアを出し合い、その後ウェブミーティングでより具体的なお話をさせていただくようになりました。堀さんも「思うところがあるので、形にしたいな」ということで、構想は少しずつ膨らんでいきました。
堀 5月の連休明けでしたね。私も魅力ある大会をやりたい気持ちはありましたから。そもそも、新型コロナウイルス感染拡大で自粛になった時点で、今までの大会を見直すとか、ナショナル、アンダーの中身を再考するという期間が与えられたと思っていました。もちろん、NTT西日本のチームのこともそうです。この時間があるうちに、工夫して、変えていこう。そう考えていたなかで、ミズノさんからこういう大会をご提案いただいたので、それは前向きにやっていきましょうとなりました。
――堀さんは大会の趣旨に共感して、出場も決めたわけですか。
堀 NTT西日本の今年のスローガンは感動です。感じて動く、感動させる……。もちろん、感動させるためだけにテニスをやっているわけではないですが、自分自身が日々の成長を感じて、感動して、うまくなっているな、まだまだだなとか、明日頑張ろうとか小さな感動の積み重ねが人間味となり、ひいては見ている人の感動を生みます。感動させるプレー、感動させる大会、生でライブにかじりついて感動してほしいというミズノさんからの思いがあり、我々のテーマとばっちり合った。やる人、見る人が感動できる大会がしたいな、と。大会がなくなり、選手たちもギリギリのところでモチベーションを保ってきましたが、こういう魅力ある大会、目標ができて、チームは気合を入れて準備をしています。
小林 まず大前提として、見る側が楽しめる大会にするためにどうすべきか。現状では無観客試合になるので、配信することが必要です。そこから話は膨らんでいきました。例えば、団体戦にしたほうがいいのではないかとか、見たいペアを投票してもらうことでオールスター戦のようにするなど、いろいろなアイデアを出して、そこから精査していきました。
堀 最初は私と原(侑輝・コーチ)が、あれがいい、これがいいと思いつくことを出し合ったことからです。
小林 同時に考えるべきことは、見てもらうためにすべきことは何か。インドアのほうがボールは見えやすい。さらに見やすくするためにコートにシートを引いたらどうかなど、いろいろなシミュレーションをして、お金を払っても見たいコンテンツにしたい、すべきだ、と。それは選手側のモチベーション、パフォーマンスアップにつながると思います。
――見る側を満足させるためには、どういうことが必要でしょうか。例えば、常にスコアが分かればいいなと思いますが。
堀 演出を良くすればカッコよくなります。ポイントが分かりやすいかどうかもそうでしょう。解説もその場で聞ける。工夫してカッコいい演出を増やしていけば、選手たち側の意識も変わります。良い意味でカッコつけないといけなくなりますから。自分の立場としては、選手の意識を変えないといけないと思います。これだけ素晴らしいプレーをするのに、何かカッコ悪いところがある。だらっとしたり、暗かったり、淡々としすぎて、どこがビッグポイントなのか見ている側が分からないからハラハラしない。
引退してから、シノコバを見習えよと思うようになりました。彼らは勝ち続けるだけでなく、観客をひきつけるような華がありましたから。ああいうスタンダードで何人もそういう選手がいないとだめだな。子どもたちに夢を与える、大人になってもソフトテニスを続けるようになってもらいたい。それには選手たちの意識改革が必要です。私にはできなかったし、実績や自信もなかった。だからこそ余計に、高レベルの選手たちを見ると、「もっとカッコつけろよ~」って思っちゃう。
――見せる側の立場としての考え方は変えていける分野です。
堀 今回は無観客ですが、きっかけになるというか、こういうふうにやっていけばいいんだなと思わせるような大会にしたいですね。来年以降の参考になるとか。
小林 既存の大会もそうです。もっとお客さんが集まる方法があるんじゃないかと話すことがあります。お金を払って来ていただくにはどうすべきか。どうすれば盛り上がるのか。喜んでもらえるのか。この先、変えていくタイミングなのかな、と。
――東京インドアでシノコバの人気はすごかったですし。
小林 あれは単に自分の人気というか。
堀 謙虚やな~(笑)。
小林 子どもたちからすれば、生で見られたとかもそうですが、試合以外に楽しめることがあるのは大切です。家族で楽しめる、両親が見に来ても楽しめる。あとは、他競技のように代表合宿を見に来るとか。四日市で行っているナショナルや代表合宿は非常に内容が濃くて、参考になることはたくさんあります。でも、見に来ないのか、来られない、知らないのか。
堀 あんなふうにできるんだとか、子どもたちは見て学びますからね。
ライブ配信への挑戦。映像を楽しむことを
――ライブ配信について具体的に教えてください。
小林 今回は無観客試合を前提にして、ライブ配信を見ていただくので、これからの新しいスタンダードへのチャレンジにもなります。また、NTT西日本さんのミッションにあるような、地域貢献活動は大切な部分で、大会前日に子どもたちを教える場を設けたり、エスコートキッズなどは将来的に考えていきたい分野です。だから、今年やるだけでなく、来年以降にも目を向けていくつもりです。
同時に、ライブ配信は遠方の方にも見てもらえます。だから、ソフトテニスの魅力を今まで以上に、より多くの方に伝えられるかもしれません。ライブ配信が日常的になれば競技の魅力が伝わる、選手の知名度が上がるという相乗効果もあるはずです。現在はトップ選手のプレーをいろいろな地域で見せてあげたいということで主要大会は持ち回りになっていますが、生でなくても映像で見られるようになれば、大会開催地の固定などもできるようになります。固定することで、大会のノウハウなどを蓄積していけます。我々も配信して、それを再評価することで、次回に何が必要か分かることもあります。
――ライブ配信する上で、新たに考えられていることはありますか。
小林 今回はデータスタジアム様にご協力いただき、スタッツを取り入れる予定です。チェンジサイズごとにサービスやリターンのポイント率、ミスの種類などポイントの詳細を出していくつもりです。硬式テニスはもちろんですが、バレーボール、バドミントンなどを見ても、そういう部分をきちんとしていくことが、見る環境には重要になっていくと思います。私もそれに慣れていかないといけません(笑)。好きな食べ物は何かとか、無駄なことはしゃべりませんが、選手自身のことは引き出してあげたいですね。
堀 私も解説したかったですが、NTT西日本から優勝を狙える3ペアが出場する予定なので、最高のプレーで優勝するためのベンチワークに徹します!小林君の解説、テニスと同じく、引き出しの多さに皆さん期待してください。
小林 全試合するわけではないですが、準決勝、決勝は解説するので、私自身、肩に力を入れずにやりたいと思っています。選手の特徴だけでなく、前日からの動向などを見て、取材もして、それを伝えていければ。
――野球、サッカーのような人気競技は映像で見ているほうが圧倒的に多いので、これからファンを取り込んでいくためには大切な部分です。
小林 最初は難しいですが、映像の見せ方にも興味があります。他競技を見ていても、これは生かせるんじゃないか思うことはあるので、積極的に取り入れたい。
堀 NTT西日本は「ソーシャルITCパイオニア」をめざしています。今回は間に合わなかったですが、NTTのICT活用のひとつとして、AIカメラで何方向も撮影できるものがあります。今後はNTTグループの豊富な技術で提案していけるようになれば、選手たちも誇りに思うでしょうし、引退後の業務としてもさまざまな競技や、スポーツ映像ソリューション等に関わっていけたらと思っています。具体的にはNTTスポルティクトという会社を立ち上げ、アマチュアスポーツにもスポットを当てていこうとしています。競技をやめたらいなくなるのではなく、引退後もスポーツに何かしら携わり、経験を活用できれば、競技を続ける子ども、若者たちも増えるかもしれません。
――出場選手、関係者の感染対策も教えてください。
小林 前後2週間の体調管理。会場には4面コートがありますが、試合を行っている隣のコートは空けて、そこに選手のベンチを設けようと。試合時、選手のベンチの間にはパーテーションなどを置き、選手同士が話をするときに飛沫が飛ばないようにする。選手の控室も、席の近くが密にならないようにする。あとはライブ配信のクオリティを確保することに努めます。選手もストレスにならないような環境作りが前提ですね。
本気の勝負だから見る側に伝わる
――8ペアが参加して、2日間で頂点を争います。大会の見所があれば教えてください。
堀 昨年まで所属していた船水雄太との対戦も楽しみですし、雄太にしてもNTT西日本に負けられるか、というのがあるでしょう。こちらも、NTT西日本から出ていった選手に負けられるかというのがある。こういうストーリーがあれば面白いですね。
小林 自分もそういう話を聞いていて、NTT西日本の選手がどういう気持ちだとか、伝えられることがありますし、薄っぺらい情報で終わらないようにしなければ。
堀 エキシビションマッチではいけないです。本気で勝負することで見る側に伝わることがあります。真剣勝負だけど、前日もみんなで練習して、ストーリーなどが見えていけば。例えば、昔がすべて良かったわけではないですが、中堀(成生)/髙川(経生)に対して向かっていったシノコバの熱量、それに対する「お前らには負けん」という中堀/髙川の貫禄。そこにはストーリーが見えます。このゲームで勝負にいったんだ、とか。それが今は見えない。高い技術のぶつかり合いというか、意図を持った配球をしているのかが見えないことが多いですね。今回は、長く試合がなくて、たまったものをぶつけ合うような展開になればと期待しています。
――10月3、4日という目標が決まったのは選手にとって大きいでしょうね。
堀 そうですね。我々は気持ちが入っていると思いますし、他の選手たちがどういうテンションで来るのかは気になります。
小林 これだけの選手たちが集まるので、練習コートでサブコンテンツをSNSに配信することで、ライブに集客できるかもしれません。大会をやった意味を多くの人たちに伝わるような取り組みはしていきます。ライブ配信を見ていただくためにできることをする気持ちです。
堀 選手同士の意識が高ければ、ガチでやろうという姿勢が見えてくると思います。
小林 堀さんが大会出場を了解していただいたのもその点ですし、練習試合のようにはしたくない。勝ちにいくという意識を持ってくれていると思うので、良い緊張感は出るはずです。無観客ですが、多くの人たちに見られているという雰囲気は出るでしょう。ぜひ、成功させましょう。
堀 そのための準備は万全で臨みます。