日頃の練習や試合で気になる、ちょっとしたメンタルの疑問への考え方を、専修大の佐藤雅幸先生に解説いただく本連載。第三回は、効果的な深呼吸の方法について。「緊張したら深呼吸」という対策を実践している人は多いだろうが、そこに暗示を添えて実践する。
息を吐く時に、恐れや迷い、不安も一緒に外に出している
佐藤雅幸(専修大学教授)
メンタル面のサポートを担当している修造チャレンジのジュニア選手に、「緊張してきたらどう対処する?」と質問してみました。すると「深呼吸をする!」という大正解の答え。そこで実際に「深呼吸」をしてもらうと、なんと「深呼吸」が「浅呼吸」になっている選手の多いこと。
心が辛い状態になったり緊張してくると、生理的反応として交感神経が優位に働いて血圧や心拍数が高くなり、息が切れたり、ドキドキしたりします。その対処法として「深呼吸」で副交感神経を優位させると落ち着いてくる訳ですが、正しい呼吸法をしないと逆効果になってしまいます。必ず腹式呼吸で、鼻から息を吸ってお腹に息をためて膨らませるように。口から息を吸うと胸式呼吸になって、逆に心拍数が高くなり興奮してしまいます。これは、やる気が起きない時におすすめです。
わが師、日本体育大学長田一臣名誉教授が、オリンピックで活躍するトップアスリート達に、暗示を添えた呼吸法を指導していました。ただ深呼吸するだけではもったいない。大きく息を吸う時には、太陽、力、やる気、希望、明るいもの全てを吸い込んでエネルギーが身体の中に満ち溢れている……と暗示をかける。息を吐き出す時には、恐れ、迷い、不安、イライラ、じめじめとしたもの全てが外に出ていってしまったと暗示をかけると。
応用編として「暗示放尿」も指導していました。大きな試合などで緊張してくると神経性の頻尿になるのは当然なこと。トイレで、ただ出すものを出すのではなくて、そこに「イライラや不安が全部出ていった!」と暗示をかけることで、すっきりと、清々しい気持ちで執念を持って勝負に挑むことができるというわけです。
暗示呼吸や暗示放尿は、プロ選手やオリンピック選手の多くが実際に使っています。一流の選手になればなるほど、「これはヒントになるな」と思うとすぐやりますが、二流三流の選手は「そうか~、そういうこともあるんだ~」というところで止まってしまう。暗示呼吸や暗示放尿はすぐにでも使える心理スキルです。暗示を上手に利用して、最高のパフォーマンスを発揮してもらいたいものです。