日頃の練習や試合で気になる、ちょっとしたメンタルの疑問への考え方を、専修大学の佐藤雅幸先生に解説いただく本連載。第五回では、第四回のテニスノートの応用編として、ロールレタリングを紹介する。相手の立場に立って手紙を書くことを繰り返すと、相手の気持ちを理解できるようになる。
相手の立場に立てば、話さなくても、なんとなく分かってくる
佐藤雅幸(専修大学教授)
ノート活用の応用編として、ロールレタリング(=役割交換書簡法)という手紙のやりとりを紹介します。プロスポーツ選手のAさんがチームメイトBさんとの関係で悩んでいた時に実施して効果的だった方法です。これは、「自分」と「相手」の一人二役を演じながら、往復書簡のやり取りを繰り返し、自分の立場と相手の立場とで手紙を書くことによって、相手の考えを理解し、自分の心のキャパシティーを広げていくためのもの。本当に手紙を相手に出すわけではありませんのでトラブルにもなりません。
例えば「Bさんへ:最近の練習をみていると、やる気が感じられないし、私に辛く当たってくるのは、何か問題なのか知りたい!」と書いた手紙を送ります。そして、Bさんになったつもりで手紙を受け取り、次のような返事を書きます。「Aさんへ:手紙ありがとう。実は練習内容に不満があって、練習に集中できない状態です。あなたに不満があるのではありません……」。これを数回繰り返していくうちに相手の気持ちが理解できて、実際の対応にも変化が生じてきます。
大事なのは相手の立場に立って考えてみるということ。『孫子』の有名な教訓の一つに、「彼を知り己を知れば百戦あやうからず」とあるように、自分と相手の心理状態を理解することで、戦略や戦術にもバリエーションがでてくるはずです。
写真◎BBM 取材◎井口さくら