日頃の練習や試合で気になる、ちょっとしたメンタルの疑問への考え方を、専修大学の佐藤雅幸先生に解説いただく本連載。第七回のテーマは、周りへの感謝の気持ち。学生は特に、ミーティングなどで繰り返されることの多い言葉のはずだが、トッププレーヤーほど感謝の気持ちを大切にするという。
自他ともに良い状態で向かっている時に勝てる
佐藤雅幸(専修大学教授)
テニスやソフトテニスは個人競技ですが、一人ではトップに立てません。周りには、スタッフやコーチがいます。自他ともに良い状態で向かっている時に勝てるのです。ラケットを投げるなど、感情がコントロールできない身勝手な選手が勝つこともありますが、それは一時的なもので長続きはしませんし、周りが不幸の状態での勝利は、本当の意味でのハピネスではありません。支えてくれる周りの人の気持ちを分かっていないと、トップには立てないのです。
タイトルを取るたびに自分を客観的に見られたり、周りのサポートを実感するようになります。テニス界で、かつては悪童と呼ばれたトッププレーヤーたちも、経験を重ねるうちに一人では勝てないことを知り、周りに感謝の気持ちを持つようになっています。
ライバルとの関係性についても同じです。もちろん、若い選手はジェラシーを感じることもあるでしょうし、ライバルの活躍にマイナスな感情を抱くことも当然です。しかし、それを乗り越えると、「あいつも頑張っているから、俺も頑張ろう」と、プラスの感情が出てくるようになります。さらに成長すると、「あいつが負けた分も、俺が勝たなくては」と考えられるようになり、これは心理学では「I’m OK. You’re OK.」という、自分と他者に対する肯定感で満たされている理想の状態です。