日頃の練習や試合で気になる、ちょっとしたメンタルの疑問への考え方を佐藤雅幸先生に解説いただく本連載。第10回は、アドバイスを素直に受け入れられない場合の対処法をテーマに、二回に分けてお届けする。前編は、心の中の5つの自我について。交流分析によって自分の心理的特性を知ることで、気持ちがコントロールできるようになる。
人それぞれ、物の考え方・見方のクセや他者との関わり方に違いがある
佐藤雅幸(専修大学教授)
敗戦直後に、監督やコーチからのアドバイスを素直に受け入れられないのは、よくあることです。そこで、人の心理状態を分析するために役立つ「交流分析理論」を紹介します。交流分析理論は、精神科医E.バーンによって提唱されました。交流分析を活用すれば、自分自身の他者との関わりの傾向を知ることができるので、コミュニケーション上の問題解決や、無用なトラブルを回避することができます。交流分析では、自身の物の考え方や見方、そして行動に、下記の5つの自我状態が影響していると述べています。
①クリティカルペアレンツ(CP)
批判的な親の自我状態。「こうあらねばならない、こうであるべきだ」という考え。
②ナーチャリングペアレンツ(NP)
養育的な親の自我状態。悲しんでいる人をみると「大丈夫かな?私が何とかしてあげたい……」という考え。
③アダルトの自我状態(A)
物事を感情的ではなく論理的に考える自我状態。例えば、ジュースを飲んで「ビタミンCはどれくらい入っているか」、試合で「ファーストサービスの確率は何%だったか?」などと、分析的な考え。
④フリーチャイルド(FC)
自由奔放な子どもの自我状態。楽しい、嬉しい、悲しいなど、感情を自由に表現する。試合で感情をコントロールできなくなり、ラケットを折ってしまったり、泣きわめいたりする。アスリートに限らず、目標にチャレンジしていくためには、必要なエネルギー。
⑤アダプテントチャイルド(AC)
適応(順応)した子どもという意味。指示や命令には素直に従う。しかし、本音のところでは、不満を隠している場合もある。
これらの5つの自我は、それぞれのエネルギー量に差があります。例えば、とても優しい人は②のNPを常に働かせていて、自分よりも他人、悲しんでいる人を見れば慰めるといった自己犠牲も問わないタイプとなります。自分はどの自我が強いのか、相手(選手や監督)はどんな特性なのかといった心理的特性を把握することで、人間関係がうまくいくようになります。