【不定期連載・データと心理②】あえて相手の得意な逆クロスで勝負した志牟田/根岸
本誌連載『データ分析をあなたの味方に!』出張インタビュー/全日本選手権女子・後編
ソフトテニス・マガジンでは、元実業団選手のアナリスト・成田悠さんによるデータ分析法を連載中。3、4月号では2023年度全日本選手権の女子決勝、志牟田智美/根岸楓英奈(東芝姫路)と前田梨緒/中谷さくら(須磨学園)の試合を分析した。前編に続き、今回も皇后杯覇者の志牟田/根岸に、成田さんの分析時の疑問に答えていただいた。
アナリスト◎成田悠(日本女性アスリート協会)
Profile なりた・はるか◎1990年11月6日生まれ、33歳。小学生でソフトテニスを始め、明治大法学部卒業後、アキムとアドマテックスで5年プレー。皇后杯では巻高3年時に8強、アドマテックス1年目の2016年に4強(ともに/小林優美)。2016年全日本実業団3位。現役時代は後衛。2017年に引退後、スポーツのデータを取り扱う会社にて野球のデータ配信事業やソフトテニスの分析事業に携わる。2022年10月より、一般社団法人日本女性アスリート協会の事務局長とデータアナリストに就任。明治大女子のコーチも務める傍ら、“いつもテニスを持ち歩く♪“がコンセプトのWEBメディア、ソフポケの運営など、幅広くソフトテニスに携わる。ソフトテニス・マガジンにて『データ分析をあなたの味方に!』を連載中
ーーー前編ではサービスダッシュについてお聞きしましたが、後編は陣形について。前田/中谷ペアはリターン時に後衛の前田選手が逆クロスに入ることもあり、全体的に逆クロス展開が多く、ポイント時の展開は約半数の46%が逆クロス展開でした。相手の得意とする逆クロス展開への対策はしていましたか?
志牟田 先に始まった前田/中谷ペアの準決勝を見ていると、逆クロス展開で中谷選手が仕掛けるパターンが多くて。前田選手のボールが短い時に中谷選手がセンターに大きく立っていたので、ストレートパッシングをテンポ早く詰めて打てば間に合わないかなと思って、決勝では短いボールが来たらパッシングと決めていました。一回目は取られたのですが、もう一回、抜きに行きました。ここは駆け引きで、あえて逆クロス展開で勝負しましたね。
ーーー相手からすれば、得意な展開でポイントされるとダメージがあります。
志牟田 前田選手は流しがうまいので、逆クロス展開では前田選手が攻めて中谷選手が決めるパターンが多いですが、中谷選手が仕掛けて来ない時はポジションが後ろ目でした。そこでパッシングに行ってもローボレーで引っ張られたら厳しいし、中ロブでも取られるので、展開を変えるのが厳しかったというのも正直なところです。逆クロスからストレート展開に持っていくのは、前衛のフォア側になってリスクも高いので。
それから、私も逆クロスのショートクロスは好きで、相手のバックで有効打になることが多いのですが、前田選手はバックのショートのカットがものすごくて……。序盤に一本やられたのですが、あえてもう一回行って、その時は咄嗟に「ノーバンではたきに行こう!」と前に出ました。カットのボールは、ポンと当てるだけでは真下に行ってしまうので、しっかりインパクトしないと定まらないのですが、カットは自分自身も神戸松蔭学院大時代に使っていたので、本能的に返せてポイントできました。
ーーーG3ー3の3ー1という重要な場面で、とても印象的な一本でした。
志牟田 私がノーバウンドで処理することはほとんどないので、意表を突つけたかなとは思います。相手に動揺を与えられて、キーとなったというか。結果的には、相手の得意な逆クロスでポイントできたので良かったです。
ーーー展開の分析では、もう一つ特徴が。志牟田/根岸ペアが左ストレート展開に入って終わったポイントは1本のみと極端に少なかったそうですが、左ストレート展開を避けていたのですか?
根岸 意図的に避けていたわけではないです。先ほどもありましたが、前田選手が逆クロスでリターンなのでそもそも逆クロス展開が多く、前田選手も得意なので逆クロス中心になっていて。中谷選手が上も張っていたので、先ほどの志牟田さんのお話にもありましたが、正直言ってこちらもストレート展開に持っていくのが辛い状況でした。
でも、相手の得意な逆クロス展開中心でしたが、私の左ストレートに誘って決める動きもはまっていたので、変える必要もなかったんです。相手も得意なコースでやられるのが一番嫌だと思うので。
志牟田 根岸の言うように、結果的に他の展開のほうが多かったという印象です。もちろん、逆クロス展開とクロス展開にはこだわっていたので、キモになったかなとは思います。自分が右ストレート展開だと前田選手の引っ張りのボールがきつくて上げてしまって、中谷選手に叩かれてしまうので。
ーーーちなみに、球種の分析では志牟田選手は中ロブの割合が多く、高めのシュートというか、低めのロビングを意識しているようなデータが出ていたそうです。
志牟田 実は、展開よりボールの軌道にこだわっていました。前田/中谷ペアは、打点の低いところとか、前に落ちたボールを回転かけて落とすのがうまいので、後衛前ロブとか高さのついたシュートが取りづらいかなと思って意識していましたね。