『みんなのインターハイ』特別編・車の中での涙から1年、団体戦のコートに立った名護「この舞台に立てるだけで、すごくうれしかった」
インターハイ2023:女子◎7/27-29 北海道苫小牧市・苫小牧市緑ケ丘公園庭球場
8月25日(金)発売のソフトテニス・マガジン10月号では、北海道インターハイを大特集。苫小牧市緑ケ丘庭球場で行われた男女の団体戦・個人戦の激闘を、通常よりも16ページ増の大容量で詳報します。
その中に収録している企画の一つが、毎年恒例の『みんなのインターハイ』。激闘の舞台裏にあった知られざるドラマを、男女それぞれ取り上げています。今回ソフトテニス・マガジンポータルでは特別編として、本誌に掲載できなかった女子のエピソードを紹介。昨年、無念の団体戦欠場となった名護(沖縄)の1年後を追いました。
会場の中にすら入れず
7月29日、インターハイ2023のフィナーレを飾る女子の団体戦。9時からの1回戦で富士見(静岡)と対戦する名護が、12番コートに整列した。
2年連続18回目の出場。しかし、コートに立つのは5年ぶりだった。
2022年、愛媛県の今治市営スポーツパークテニスコートで行われたインターハイ。名護は2018年以来、4年ぶり17回目の団体戦出場を果たした。
7月29日と30日の個人戦を終え、いよいよ団体戦という31日の早朝、応援に来ていた部員の一人が発熱した。登録メンバーは田場典善監督が運転する車で会場へと向かい、入口の前で待機。メンバーは出場が可能になることを願い、全員で手を握り合って祈った。
だが思いは届かず、欠場を余儀なくされてしまう。無念の涙を流す部員たちを乗せた車は、会場の中にすら入れず、インターハイの戦いが終わった。
団体戦のメンバーには2年生が多く含まれていた。雪辱を期して練習を重ねた新チームは今年、予選を勝ち抜いて2年連続の団体戦出場を果たす。ただ予選終了後は「去年のことがあるので、予選で負けるわけにはいかなかった。目標を一つ達成したら、気が抜けてしまった」と田場監督は振り返る。
1年前の悔しさを知る一人で今年度のキャプテン、小川美桜も「予選が終わったら、プレッシャーから解放されてホッとしてしまい、練習が緩くなってしまった」と明かす。それでも田場監督と話し合い、「最後は笑顔で終わりたいと思ったので、練習でも笑顔を作り、みんなが笑える空間を作ることを意識した」と語る練習を経て、本番の日を迎えた。
「去年は怖がることもできなかった」
7月29日の朝、コートには強めの風が吹いていた。練習でラケットが振れていない様子を見た田場監督は、選手たちに語りかけたという。
「『怖がるのは、可能性があるから。去年は怖がることもできなかっただろう。あのとき、みんなで手をつないで車の中で待っていた気持ちを忘れるな』と話しました。『すべて受け入れて、覚悟を決めてやろう』と」
富士見との1回戦。1番で出た小川/玉城碧夏は第1Gを落としたものの、第2Gから巻き返してG④-1で勝利。2番の座波桜花/平良彩妃も接戦を制してG④-2で続き、勝ち抜きを決めた。春の全日本高校選抜3位の白鷗大足利(栃木)と対戦した2回戦は、1番で小川ペア、2番で座波ペアが連敗。一矢報いたかった3番の福地美楽惟/濱川詩友も敗れ、夏の戦いが終わった。
「自分たちができることをやって、勝利を目指した1回戦は良かったと思います。でも、そこでホッとしてしまった。2回戦も相手は強かったですが、もう少し向かっていけたと思う」と田場監督。それでも「絶対にインターハイのコートに立つ、というプレッシャーの中で1年間、よく頑張ってきた」と選手たちの頑張りを称えた。
小川は1年前の3年生3人、青木春音さん、上原優菜さん、宮城かれんさんから、大会前にLINEでメッセージを受け取っていた。
「『去年は出られなかったけど、自分たちがやりきったから後悔はない』という言葉がありました。私も、どんな結果でもいいから、やりきることが大事だと思っていて。この舞台に立てるだけで、すごくうれしかったです。保護者の方々もたくさん来てサポートしてくれて、後ろに仲間がたくさんいると思ったら、プレーしているだけで楽しい時間でした」
コートに立って、やりきった。苫小牧市緑ケ丘庭球場には、3年生の思いも届いていたはずだ。